鬼といえば「悪鬼」「邪鬼」と良いイメージがあまりありませんが、鬼から神になったお話もあります。
『鬼子母神』という言葉を一度は聞いたことがあると思います。
鬼子母神の物語は土地により内容が少しずつ変わっていますが、琴の知っている鬼子母神のお話はこうです。
ある日、人間の子供をさらっては自分の子供に赤ちゃんの生き血を飲ませ育てていた鬼女がいました。
見るに見かねた菩薩様が、100人からいる鬼女の子供を一人だけ隠しました。
人間の子供をさらいに行って帰ってきた鬼女が、子供が一人いないことに気づき探し始めます。
気が狂ったように子供を探してまわり、探しても探しても子供は見つかりません。
とうとう鬼女は、身も心も疲れ果てお釈迦様の元に相談に行きます。
そこで聞いたのが「菩薩様に会いに行きなさい」という言葉。
鬼女は菩薩様に会いに行くのをためらいましたが、我が子のためと意を決して足を向けます。
菩薩様に会いに行った鬼女が見たのは、そこに居なくなった我が子を抱いている菩薩様の姿。
泣いて我が子を返してほしいと懇願します。
そこで菩薩様が鬼女に言いました。
「そなたが100人からの子供のうち、一人いなくなっただけでこれだけ必死に探すのに、突然乳飲み子がいなくなった親はどんな思いだったのか。やっと授かった子もいただろう。子供をさらわれ悲しみに暮れる親が何人いただろう。
100人の子を育てるのにそなたは何人の子をさらってきたのか。
何人いようと子は子。
そなたが人間の子を子と見ず自分の身勝手でどうとして良いものか?
親としての思いは人間であろうと鬼であろうと同じこと。
心から悲しみ、我が身を引き裂かれる思いがわかったか?
人間の親とて同じこと。
その悲しみをどこにぶつけてよいものか分からず、途方に暮れる思いや悲しみを誰が背負うのか。これでよく分かったであろう。」
鬼女は答えます。
「良く良くわかりました。
私はとんでもないことをしていました。
この償いは今まで自分がやってきたことと引き換えに我が身を捧げて参ります。
なので、どうか私の子を返してください。」
菩薩様は言いました。
「では、良く聞くがよい。
これからは人間の子も我が子と同じように慈しみなさい。
この世に生まれることが困難な子もあろう。
災難で命を落とす子もいよう。
親の勝手で生まれてこれない子もいる。
これら全ての子を愛すと誓えるか?」
鬼女は答えます。
「是非そうします。
全ての子は我が子。
全ての子の命は我が子の命。
全ての子の魂は私が身を呈し、我が命に変えてもお守り致します。」
菩薩様は言います。
「そなたの言葉、心からの言葉として受け取った。ではそなたの子を変えそう。
途中で心変わりなぞしたら、そなたの子を全て我が隠し二度と会えない目に合うこと、しかと心に刻むがよい。」
鬼女は迷います。
その迷いを菩薩様が見逃すはずがありません。
そこで菩薩様は急に神々しい光を鬼女に浴びせました。
その瞬間に見た光景は、自分の子供が菩薩様の発した光により次々と消えていく様でした。
鬼女は慌てて自分の家に帰ると、そこにいた98人の子供がいなくなっていて、一人残っていた子供も我が手に抱いた瞬間に消えたのです。
鬼女は気も狂わんばかりに泣き叫び、菩薩様の元に走りました。
生きる気力も菩薩様を責める力も無く、ただ放心状態で菩薩様の前で泣き崩れます。
そして、菩薩様と目が合った瞬間に、最後の一人の子も菩薩様の腕の中から消えました。
鬼女はショックと共に目の前が真っ白になり立ち尽くします。
それを黙って見ていた菩薩様。
どれだけの長い時間が過ぎたでしょう。
鬼女が岩のように動かなくなり心まで凍りつきました。
すると、突然殻が割れたように今度は鬼女が光り輝き出します。
そして、鬼の形相だった顔は聖母のような微笑みに変わり、血に塗れた手は白い優しい手に変わり、鬼女の姿はそこにありません。
鬼女は言います。
「愛とは何か知りました。
慈しむとはどんなことかわかりました。
心を入れ替えるとはとても難しく、また命の尊さも知りました。
魂とはどんなに大切かわかりました。
命を粗末にしました。
そのための犠牲になった魂がどこに行くかも知りました。
私はなんてことをしていたのでしょう。
取り返しがつきません。
菩薩様。私はどうしたらよいですか?
どう償えばよいですか?
我が子の犠牲になった人間の子の魂を闇から救うことは出来ますか?
消えた我が子の命は今どこにありますか?
教えてください。
どうかお願いします。」
菩薩様は答えます。
「今のそなたの姿をしかと見るが良い。」
そこには一枚の鏡がありました。
その鏡に写っていたのは知らない存在です。
見ていると、とても清々しく気持ちが穏やかになります。
鬼女は言います。
「これは誰ですか?」
菩薩像は答えます。
「それが今のそなたの姿。何が見える?」
鬼女は答えます。
「これが私?違います。こんなに清々しい訳がありません。」
菩薩様は言います。
「信じられないならそれも良かろう。自らが犯した罪を償いたければ、そなたが見た闇の世界に行ってみるが良い。」
そう言って菩薩様はいなくなり、目の前が一瞬で闇になりました。
そこにある光景は、暗く重い光一筋も指すことのない闇の世界。
鬼女はだんだん悲しくなりました。
そして涙しました。
そしてひざまづいた時、手にした感触が心を揺さぶりました。
それは懐かしく尊い感じ。
まるで我が子を抱いたような安らぎでした。
シャボン玉のような触れるとすぐに壊れてしまう貴重なものを優しく慈しむように手にしました。
すると、その玉はゆっくりと、虹を含む輝きの中から人間の子供をへと変わったのです。
そして鬼女に笑顔を向けると白い帯になり天に昇っていきました。
鬼女は、またひとつまたひとつと虹色の玉を手に取り、その都度、温かい感触から子供へと変化し天に昇る様を見て、無心で玉を拾い始めました。
最後のひとつの玉の行く末を見届けた時、心の闇が無くなる感じがしました。
その時、胸に手を当てると、そこには目の前で消えた我が子を抱いていました。
その時に止めどなく涙が溢れ出てきました。
我が子に対しての愛と手元に戻ってきた喜びに感謝した涙でした。
すると、闇だった世界に光が差し込み、目の前には消えた我が子達がいました。
そこに菩薩様が現れ、こう言いました。
「そなたに言う。
これからは人間の子も我が子と同じように慈しめるか?この世に生まれることが困難な子もあろう。災難で命を落とす子もいよう。親の勝手で生まれてこれない子もいる。
これら全ての子を愛すと誓えるか?」
鬼女は言います。
「はい。慈しみ愛し感謝致します。
我が子の命の大切がわかりました。
全ての子の魂の尊さがわかりました。
自分の身勝手さを身に染みました。
子を失った親の悲しみと怒りがわかりました。
それらの思い、我が心で癒します。」
そう言い終えると、菩薩様は消え、そこには神として生まれ変わった『鬼子母神』がいました。
これが琴の知っている『鬼子母神』のお話✨
人の心はすぐには変えられない。
だけど、辛さ苦しさから学ぶものもあるということを鬼子母神から教えていただきました✨
このお話は、鬼子母神から教えてもらったお話です😊
鬼から神になったお話でした✨